美術館を訪れる際、アートの初心者ほど、「ここで、この機会にたくさんの作品をみておこう」と全ての作品を均等に時間をかけて鑑賞しようしていませんか。
実は、アートというものは、「感性」だけでさらっと見て本当に鑑賞したと言えるような代物ではありません。
「感性」はもちろん必要ですが、「感性」などというものは実は万人が持っているものです。真の「アート鑑賞」には「感性」に加えて「知性」いや「知力」というものがとても求められます。
そして、この「知性・知力」によって「感性」が大きく揺らぐものなのです。
本当の意味でアート初心者が初心者を脱して「感性と知性」のクロスした頭で、真の「アート鑑賞」ができるようになる方法、それが「メリハリをつける」というアプローチだと言われています。
なぜ、「メリハリ」をつける見方が有効か、その理由と、そうした美術館巡りの方法をご紹介しておきます。
1. 重要な作品を事前にリストアップする
美術館に行く前に、展示されている作品や作家について調べておくことが有効です。
美術館のウェブサイトや展示ガイドを確認して、特に注目すべき作品を事前にピックアップしておきます。
その際、作家や作品の背景についても調べておくと、より深い理解が得られます。事前にコンテクストを理解しておくことで、実際にその作品を見たときに、その価値や意図を正確に感じ取ることができるようになります。
2. 最も重要な作品に集中する
美術館には、訪れる価値のある名作が数多く展示されていますが、すべての作品に均等に時間をかけようとすると、後半には集中力が欠けてしまいます。
特に展示の終盤にある重要な作品をじっくり見るためには、最初からある程度の優先順位をつけることが大切です。
まず、注目すべき作品をリストアップし、その作品に最も多くの時間を割きましょう。
例えば、印象派の巨匠モネやルノワール、ピカソの初期の作品など、その時代や運動を代表する作品には、作家の個性やその後のアートの方向性を理解するために深い集中が求められます。
事前にコンテクストを知っておけば、作品に込められたメッセージや技法の進化をより良く捉えられます。
3. 脳の疲れを避けるためのタイムマネジメント
美術館での鑑賞は精神的に集中を要する活動です。
長時間同じ場所に立ち続け、細かいディテールに目を向けることは、思った以上に疲れることがあります。
脳が疲れると、集中力が途切れ、作品の細部を見逃したり、重要な要素を取り逃す可能性が高くなります。
また疲れた脳では「感性」を研ぎ澄ますこともできなくなるでしょう。
そのため、美術館に行く際は、少しの休憩を取りながら鑑賞を進めることが効果的です。
例えば、30分ごとに短い休憩を入れることで、鑑賞後半に力尽きることなく、重要な作品を十分に味わうことができます。
また、休憩時には他の展示室を少し歩いたり、カフェでリフレッシュするのも良い方法です。
これにより、脳の疲れをリセットし、次の作品を新たな気持ちで鑑賞できるようになります。
4. その他の作品はサラッと鑑賞する
重要な作品に集中するためには、それ以外の作品を「さらりと」見る方法が有効です。
美術館には大量の作品が展示されており、すべてをじっくりと鑑賞するのは難しい場合もあります。
すべての作品に時間をかけようとすると、逆に疲れや集中力の欠如を招いてしまいます。
あらかじめリストアップした重要な作品以外は、軽く目を通す程度にしておき、その作品がどのようなものかを大まかに把握するだけでも十分なのです。
どんなに著名な大作家と言えども、全ての作品が名作、と言われるような作家は稀有であり、その生涯の歴史や背景、変遷をみるためだけでいい作品もあります。
アートの専門家等で、それらの作品まで、つぶさに研究したり、評論する、といった目的でもない限りは、やはり名作と言われている重要な作品こそ、じっくりと鑑賞すべきなのです。
(もちろん、そういう作品ほど人が多く並んでいて見づらいとは思いますが。)
この方法で、鑑賞のペースが緩やかになり、重要な作品に集中するためのエネルギーを確保できます。
重要とされていない作品は軽く流して、後で気になる作品について、もう一度、深く調べるという方法もあります。
5. メンタルと体調の管理
美術館に行く前に、体調を整えることも大切です。鑑賞を楽しむためには、体力と精神力が必要です。
眠気や空腹、体調不良などがあると、集中力が低下し、アートの本質を感じ取ることができません。
美術館を訪れる前には十分に休息を取り、軽食をとることで、エネルギーを充電しておきましょう。
また、美術館の広さや展示内容によっては、長時間歩き回ることになります。
適度な運動をしておくと、鑑賞中の体力を保持し、長時間でも集中力を維持することができます。
6. 事後の振り返り
美術館を訪れた後に、鑑賞した作品について振り返ることも大切です。
特に重要だと感じた作品については、その背景や技法についてさらに調べてみることで、理解が深まります。
また、そのときに感じた印象や感情をメモに残しておくことで、次回の鑑賞に活かすことができます。
まとめ
美術館での鑑賞は、実は「感性」だけでなく、深い理解を得るためには大きな「知力」を必要とするものです。
重要な作品に集中してじっくり見るためには、事前にその作品の背景やコンテクストを理解し、鑑賞中には適切な時間配分を行うことが重要です。
疲れを避けるための休憩を取りつつ、その他の作品はサラッと鑑賞することで、最も価値のある作品に力を注ぐことで、充実した鑑賞体験を得ることができるでしょう。
但し、例外として、滅多にない海外美術館からの作品の展覧会等で、さらりと流せる作品はほぼ皆無の有名な名作ばかり、という展覧会もありますので、そういう場合は、十分な準備と覚悟を持って臨む必要があります。