「アート」を超えたクリエイションを（近未来SFアート小説：リナ・ダルトン博士講演録2）

2100年の未来から来た「リナダルトン博士」の講演録その２です。
（架空のSF小説における並行世界での講演記録）

「NOT ART＝思考と至高のクリエイション」～枠を超えた評価の必要性

会場: 都内某ホール
テーマ: 「現代アートを超えたクリエイションの新しい地平」
講師: リナ・ダルトン博士

講演冒頭

みなさん、今日はアートやクリエイションの評価について、少し枠を広げた視点でお話ししたいと思います。
私たちは日常的に『アート』という言葉に縛られがちですが、ここで問い直したいのは、アートという言葉に限らず、『思考と至高のクリエイション』という広い概念で、現代アートや他のクリエイションを同列に評価すべきではないか、ということです。

現代アートだけが特別であるとか、大衆文化は浅いとか、そうした二分法的な見方を捨て、人間の創造的営みをひとつの統一された視点で考え直す必要があるのではないでしょうか。

1. 「思考と至高のクリエイション」とは何か？

(1) クリエイションの本質

クリエイションとは、単なる『作ること』ではありません。それは、感性と知性が交差し、新しい価値や問いを生む行為です。現代アート、映画、音楽、文学、さらにはデザインやテクノロジーまで、どれも思考の深さと至高の表現が融合した成果と言えます。

たとえば、映画『ブレードランナー』は、SFという大衆的なジャンルの枠を超え、『人間とは何か？』『人工知能は魂を持つのか？』といった哲学的な問いを投げかけました。このように、クリエイションの本質は、形式に関わらず、深い思索と美的な完成度の追求にあります。

(2) アートと大衆文化の境界を取り払う

私たちは、アートを『高尚なもの』、大衆文化を『軽い娯楽』と分けがちです。しかし、それらを同列に扱う視点を持つことで、全てのクリエイションが人間の創造的営みとして評価されるべきだと気づくことができます。

例えば、ボブ・ディランの歌詞は、音楽という形を通じて詩的な深みや社会的メッセージを伝え、ノーベル文学賞を受賞しました。この事例が示すのは、『詩』『文学』と『歌詞』の境界が意味を失い、クリエイション全体を同じ地平で評価する重要性です。

2. 現代アートの枠を超えた評価の必要性

(1) 「現代アート」の枠組みを乗り越える

現代アートの一部では、アートを特権化し、『分かる人だけが楽しめる』ものとして切り離してしまうエリート主義が見られます。
こうした態度が、大衆をアートから遠ざけ、クリエイション全体を分断してしまう原因となっています。

一方、アートとされていない多くのクリエイション―映画、ゲーム、アニメ、広告デザイン―には、深い思考と美的な完成度が込められています。これらを現代アートと同列に評価する視点が必要です。

(2) 思考の深さは形式を超える

たとえば、スタジオジブリのアニメーション作品や、映画『AKIRA』のビジュアルデザインは、単なる娯楽作品の枠を超えて、自然と人間の関係や未来への警鐘といったテーマを扱っています。これを絵画や彫刻と同じように評価しない理由は何でしょうか？

3. 「思考と至高のクリエイション」を評価するための具体策

(1) 評価軸を統一する

クリエイションを評価する際には、次のような軸を統一的に用いるべきです。

テーマの深さ： その作品がどれだけ普遍的な問いを投げかけているか。
感性と知性の融合： 感覚的に美しいとか心に響くとか、だけでなく、知的な思索を誘発するか。
文化的・社会的影響： その作品が社会や文化にどのようなインパクトを与えたか。

この軸で考えれば、現代アートも映画も音楽も、同じ基準で評価することが可能です。

(2) 教育の枠組みを広げる

教育現場では、現代アートだけでなく、大衆文化やテクノロジーに基づくクリエイションも取り入れるべきです。たとえば、ゲームデザインを美術の一部として教えたり、映画の脚本を文学と比較して学んだりすることで、学生が『思考とクリエイション』を広い視点で捉える力を養うことができます。

(3) 大衆参加型のアプローチ

クリエイションは、専門家だけのものではなく、大衆の感覚的な体験や議論を通じて価値を広げるものです。たとえば、美術館の展示と映画館の上映を連携させるイベントや、一般の人が作品を評価し共有できるプラットフォームを作ることで、クリエイションをもっと身近に感じられるようになります。

4. 趣味嗜好を尊重しつつ、視点を広げる

(1) 好き嫌いを超えた対話を促す

「趣味嗜好は人それぞれで、どのクリエイションを楽しむかは自由です。しかし、それを超えて『この作品は何を伝えようとしているのか？』という対話を行うことで、個々の作品が持つ本質的な価値に気づくことができます。」

(2) 新しい体験を促す

「クリエイションの多様性を理解するためには、自分が普段触れない分野の作品を体験することが重要です。たとえば、ポップミュージックが好きな人がクラシック音楽を聴いてみたり、アニメ好きが現代アートの展覧会を訪れたりすることで、新しい視点が広がります。」

5. まとめ：思考と至高のクリエイションが切り開く未来

「私たちは、『アート』という言葉に囚われることなく、思考と至高のクリエイションを包括的に捉える視点を持つべきです。それは、現代アート、映画、音楽、ゲーム、テクノロジーを同じ地平で評価し、すべてが人間の創造性の表れであることを認めることです。

この視点を広げることで、趣味嗜好の壁を超え、クリエイションを通じて人々がつながる新しい文化的基盤を築くことができるでしょう。『思考と至高のクリエイション』を基軸に、私たちはアートの未来を再構築することが求められています。」

講演後記： リナ・ダルトン博士の講演は、「アート」という一種のブランドワードを超えた「クリエイション全般」を同じ地平で評価する新しい視点を提案するものでした。
聴衆からは「映画や音楽が美術や現代アートと同じ価値を持つと考えたことがなかったが、納得できた」「自分の好きな作品も『至高のクリエイション』として誇りに思える」といった感想が寄せられ、「アート」という曖昧な使われ方の言葉の枠を超えて「思考と至高のクリエイション」としての「NOTART」を評価するという、多様な文化的価値を再認識する機会となりました。

「現代アートが目指すべきはアートではない（近未来SFアート小説：リナダルトン博士の講演禄Ⅰ）