「The First Drop -境界-」のもう一つの作品解説

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共感は成立するのか? AIと人間の協働詩

AIとの協働を明示した詩

「The First Drop – 境界 -」は、AIと人間が生み出す生成物の最初の契機=「最初の一滴」をテーマにしていますが、
同時に、キュレーションボックスに収められた「詩の印刷されたカード」は、AIとの協働をあえて明示した点にもう一つの試みがあります。

AIに言葉を投げかけ、返ってきたフレーズを人間が編み直す。
さらにその修正を再びAIに投げかけ、複数のバリエーションを引き出す。
そうしたやりとりの痕跡を経て、詩は最終的に定着していきました。

ここで重要だったのは、そのプロセスを隠さず、「この詩はAIとの協働で作られた」と提示したことです。
AIを道具としてではなく共作者のように扱い、その関与を記録ごと示した点がこの作品の問いかけの一つです。

これは、「自律型AIが変えるアートとデザインの境界」と言う記事で書いたことへの実験的作品でもあるのです。

自律型AIが変えるアートとデザインの境界

境界を示す表現

この詩は、完成した作品というよりも、むしろ「協働の軌跡」を展示したものです。
AIの言葉と人間の言葉が交差し、その間に生じる揺らぎこそが、AI時代における「境界」を可視化できるのではと考えました。
つまり、詩は「AIと人間の境界を歩いた痕跡」であり、同時に「境界を越える営み」でもありました。

アートかデザインかという問い

このボックスに収めたものは、まだ、自律型AIでなく私が何度も壁打ちの対話を行って生成させた「詩」であり、また、カードの写真のデザインやセレクトも私の意図によるものなので、これは私の作品です。

しかし、もし指示せずに出てきたイメージにAIが勝手に作った詩を印刷しただけなら、これはボックスに収めた「デザインカード」でしかないという評価になるでしょう。

この試みは、「AIの生成物はすべてデザインにすぎないのではないか」という見方への応答の一つとも言えそうです。
AIが出力したものをそのまま提示すれば、確かに既製品の羅列=「単なるデザイン」の洪水に沈んでしまう可能性が高い。

しかし、人間がAIの出力を選び、編集し、その過程を明示することで、
それは単なるデザインにとどまらず、「問いを投げかけるアート」として立ち上がり得るかもしれません。

人間の「詩」というスタイルにとらわれずに作らせたAIの「詩」は、もはや意味不明な記号のデザイン

観客に委ねられた問い

この詩が観客に投げかけているのは、次のような問いだと考えられます。

  • AIとの協働を明示された詩に、あなたは共感できるだろうか?
  • その共感は最終的な詩の内容か、それともプロセスの中にあるのか?
  • アートとデザインの境界は、いまどこにあるのだろうか?

詩を読むという行為を通じて、鑑賞者にこの境界への共感や反感を問う、という実験でした。

結びに

「The First Drop – 境界 -」という作品は、人間だけが生み出せる「最初の一滴」を示す試みでしたが、
同時に、このボックスに一緒に収められた詩は、AIとの協働を明示したうえで、その共感可能性を探る実験カードです。
従来は、アートかデザインかという境界には答えがありました。しかし、自律型AIの出現でその答えは再び揺らぎ、正解はまだありません。
けれども、その境界を歩き続ける営み自体が、AI時代におけるアートのひとつの姿なのかもしれません。

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