歴史、鑑賞法、課題、多様な作家たち
本記事では、初心者向けに現代アートの基礎から現代アートが抱える課題まで、知っておくとよさそうな項目をピックアップしました。
なるべく、一度は目にしたことがありそうな著名な項目とかを多めにセレクトしつつ、アート業界で議論が続いているような難しい問題も入れてあります。
しかし、専門家の方から見て大事なことを全てを網羅するのは、このサイトの目的ではないため、大事なことはもれなく知りたいような場合は、最後にご紹介する書籍や多くのアート専門サイト等を覗いてみて下さい。
項目のセレクトがこのサイトの記事にとり上げたことに偏りがちですが、ご興味ある項目はそちらをご覧下さい。
なお、下記項目を押さえたうえでお読みいただくと、けっこう笑えるかもしれない「現代アートの課題と未来」をテーマにした「近未来SFアート小説」なるものもアップしましたので、暇つぶし程度にお読みいただければと思います。
「トンデモ本」の類の小説ですが、一応、このサイト全体に一本の糸を通すような内容にしてあります。
【1〜10】現代アートの基本とは?
- 現代アートの定義
20世紀半ば以降、形式よりもアイデアやメッセージを重視したアートの総称。
なお「アート」と「ART」は言葉の定義が異なり、アートは和製英語で使われ方が気まま自由な用語になってしまっているが「ART」には学術的な定義がある。
「現代アート」の「アート」は基本的に「ART」の学術的な枠組みを元にしているものの、日本語の「アート」としての自由さや曖昧さも加味されたハイブリッドな概念として使われている。
「ART」に近いとはいえ、使われる文脈や解釈によって、その意味合いが変わる。海外と日本では使われ方がやや異なるので注意が必要である。 - 美しさだけが目的ではない
「現代アート」の「アート」は伝統的な美の追求とは異なるものが殆どである。
「美」よりも「問いかけ」や「メッセージ」等を重視することが多い。
ART・芸術・美術・アート、といった言葉の定義、使われ方を理解していないと混乱する。
但し、伝統的な美術を意識的に取り入れたり再解釈することで、新たな視点を提示する「現代アート」の作品や作家は数多く存在する。 - 社会問題へのアプローチ
環境問題やジェンダー、差別といった現代社会の課題をテーマにする作品が特徴的。 - 観る者が完成させるアート
ジャクソン・ポロックの抽象表現主義は、観る者がその意味を自由に解釈できる作品の代表例。 - 体験するアート
草間彌生の「無限の鏡の部屋」は、視覚的だけでなく感覚的に体験するアートの代表例。 - 「アートとは何か?」を問うアート
マルセル・デュシャンの「泉(便器)」は、アートの定義そのものを問い直す作品。 - 空間そのものがアートになる
クリスト&ジャンヌ=クロードの「ライヒスタークのラッピング」は、空間や場所を作品化した代表例。 - 音楽や言葉もアートに
オノ・ヨーコとジョンレノンの「イマジン」は、音楽を通じて平和を訴えるアートの一形態。 - 大衆とエリートの接点
岡本太郎の「太陽の塔」は、公共空間で大衆と直接対話するアートの象徴。 - 多様な形式と手法
絵画や彫刻、映像、パフォーマンス、デジタルアート、ストリートアート、インスタレーションアートなど、現代アートには幅広い形式が含まれます。
【11〜20】現代アートの歴史と進化
- ポップアートの革命
アンディ・ウォーホルの「キャンベルスープ缶」は、大衆文化とアートの境界を消した象徴的な作品。 - ミニマリズムの誕生
ドナルド・ジャッドの作品は、シンプルさの中に深い意味を込めたミニマリズムの代表例。 - 大量生産品とアート
村上隆の「お花」シリーズは、日本的要素とポップアートを融合した独自の作品。 - 感情を爆発させる表現
ジャクソン・ポロックは、キャンバスに絵具を垂らす手法で感情の自由な表現を追求しました。 - 自然とアートの融合
ロバート・スミッソンの「スパイラル・ジェッティ」は、自然そのものを作品にしたランドアートの代表例。 - ストリートアートの革命
バンクシーは、匿名性を保ちながらも社会問題に鋭く切り込む作品で注目を集めました。 - 商業とアートの融合
草間彌生の水玉模様は、ファッションやデザインを通じて商業的成功を収めた例です。 - 展示空間そのものを作品化
ルイーズ・ブルジョワは、空間全体を使ったインスタレーション作品で観る者を没入させました。 - 新技術とアート
チームラボは、デジタル技術を駆使したインタラクティブなインスタレーションアートの作品で現代アートの新しい可能性を示しました。 - ネット・SNSとミーム
模倣や伝達を通じて広まるアイデアや行動が「ミーム」と呼ばれ「現代アート」とも融合してSNS等で広がりをみせています。
【21〜30】商業的企画力が現代アートに与える影響
- 公共空間を活用したアート
クリスト&ジャンヌ=クロードは、建物や自然を使った大胆な企画で観客を魅了しました。 - 社会運動としてのアート
バンクシーの作品は、直接的に社会問題を訴えるアートとしての企画力が評価されています。 - 視覚的体験のデザイン
草間彌生の「かぼちゃ」シリーズは、視覚的に楽しく、観客を惹きつける作品として広く認知されています。 - SNSとアートの普及
チームラボの作品は、SNSでの拡散を前提にした設計で、新しい観客層を取り込んでいます。 - 商業アートのブランディング
村上隆は、アートをポップカルチャーと融合させ、自身のスタイルを世界的に確立しました。 - 展示空間の演出
ドナルド・ジャッドは、作品が展示される空間そのものをアートの一部として設計しました。 - 社会問題のビジュアル化
オノ・ヨーコは、アートを平和や社会問題に対するビジュアルメッセージとして活用しました。 - ランドアートの挑戦
ロバート・スミッソンの作品は、自然そのものを使い、従来のアート空間を超越しました。 - 大衆文化とアートの境界
アンディ・ウォーホルの作品は、商業デザインとアートの境界を取り払い、新しい表現の可能性を示しました。
また、現代アートに分類されていませんが、ピンクフロイドの伝説的ロックコンサートは今日の体験型、没入型アートを先取りし商業的にも大成功していました。 - 匿名性とブランド力
バンクシーの匿名性は、アートそのものに新しい価値を付加しています。
【31〜40】現代アートの課題
- アートワールドの構造と大衆とエリートの分断
高額な作品やエリート主導の市場が、一般の観客=大衆※からアートを遠ざけています。
※大衆とは:
アートワールドには「アーティスト」以外に「アートフェア主催者」「オークションハウス」「アート評論家」「学芸員やキュレーター」「美術館」「アートギャラリー」、そして「アートコレクター」等が存在します。
そして、この「現代アートのエリート」の枠組みの外にいて、アート関連の職や会社にも関与していない、特段の教育も受けていないことにより「現代アート」への深い知見を持ち合わせていない「普通の人々」が、「大衆」と呼ばれています。 - 知性至上主義と感性至上主義の衝突
知識がないと楽しめないという考えと、感覚で楽しむべきだという考えが対立しています。 - 市場の商業化
投資対象としてのアートが、本来の価値を損なうリスクがあります。 - 作品保存の問題
新素材やデジタル作品の保存が課題として挙げられています。 - アクセスの不均衡
美術館やギャラリーが都市部に集中し、地方との格差を広げています。 - 公共アートの管理不足
公共空間に設置されたアートが適切に保護されない場合、その価値が失われる可能性があります。 - NFTアートの環境負荷
ブロックチェーン技術を使用したデジタル作品が環境に与える影響が問題視されています。 - 社会的メッセージの誤解
政治や社会問題を扱う作品が誤解され、対立を引き起こすことがあります。 - 教育の欠如
学校教育でアートが十分に教えられないため、アートへの理解が広がりにくい現状があります。 - AIとアートの問題
生成AIを使った画像が写真コンテストで優勝するという問題が起きました。
AIアートの評価、著作権、さらには「自律型AIの作るものはアートなのか?」といった従来にはない課題が生れています。
近未来SF映画「ブレードランナー」のリドリースコット監督と原作者のフィリップ・K・ディックが当初意見の相違でぶつかった逸話は、今の時代を半世紀も前に先取りしていたと言えます。
【41〜50】アートにまつわる名言と哲学
- 「アートはいやったらしい」(岡本太郎)
「愛と平和」だけでなく「生・死・性・不条理」といった重いテーマも多い。
また岡本太郎がCM出演で叫んだ「芸術は爆発だ!」という言葉も有名。 - 「イマジン(想像してごらん)」(オノ・ヨーコ)
理想の世界を描き、平和を訴えるメッセージ。 - 「アートは問いである」
現代アートは答えを示すのではなく、問いかける存在。 - 「アートは無罪だ」
表現の自由を守る象徴的な言葉。 - 「時代を映す鏡である」
アートはその時代の文化や社会を反映します。 - 「感覚の解放だ」(ヨーゼフ・ボイス)
アートが持つ自由さを象徴する言葉。 - 「大衆の中にある」(岡本太郎)
アートは誰もが触れられるべきだという理念。
岡本太郎は自らの作品を売らなかったそうである。 - 「平和は行動によって作られる」(オノ・ヨーコ)
アートが社会を変える力を持つことを示す言葉。 - 「アートはすべてだ」
アートの定義を広げた象徴的な言葉。 - 「アートは心の窓である」(エドワード・ホッパー)
人間の内面や感情を映し出すアートの力を示しています。
【まとめ】
現代アートは、多様な作家の視点とその背景を知ることで、より深く楽しむことができます。
それぞれの作品に込められたメッセージやテーマに触れることで、アートが持つ広がりと可能性を体感してください。
【最後に】興味あるものからアプローチを
「現代アート」が社会へのメッセージ性が重要と言われると、余計に「こんなわけにわからないものに、とても社会変革の力があるとは思えない」、といった気持ちになるかもしれません。
確かに、現代アートの作品が、直接的にそのような大きな影響を及ぼすようなことは殆どないかもしれませんが、世界の多様な価値観や多様なテーマを非日常的な空間で鑑賞したり体験して学ぶ、ということができます。
そして、その一人一人への影響が、時には、大河の一滴の波紋のように広がって大きな影響を及ぼしている可能性は十分あり得ます。
現代アートの歴史自体が、たった一人の革命的な作品や思想から、その後の現代アートの潮流をつくったり、直接的には目に見えない形で社会に変化をもたらしているものが存在します。
現代アートとは直接関係ないような、普段身近に親しんでいるロックやポップスのミュージシャン等には、現代アートの大好きな人たちやオノヨーコのように「現代アート」のアーティストそのものという人もいます。
もしかすると、皆さんもコンサートなどの体験を通じて、現代アートが発信したメッセージを間接的に受けて影響されているのかもしれません。
オークションで高額取引されたニュースの作品をみて「わけがわからない」と敬遠するよりも、ジョンレノンの「イマジン」も実は「ヨーコ&ジョン」の「現代アート」だった、と知れば、興味が湧くのではないでしょうか。
そんな「ビートルズ」といった誰でも知っているような、一見すると現代アートと関係ないと思われているような身近なところから、自分が興味あるものを探して「現代アート」に触れてみるのがいいかもしれません。
ご参考~現代アート専門書籍や専門サイトのご紹介について
「現代アート」に関しては、「とにかくよくわからない」、といったネットの書き込みもよくみかけます。
そういう方のために、とりあえず、私が最初に購入して読んだ書籍を3冊ほどご紹介しておきます。
とりあえず、広く浅く、ざっくり知りたい方には、書籍名が「辞典」となっていますが、1の「現代アート辞典」がいちばん薄いのですが、写真も多く網羅性もあり、読みやすいと思います。
3は、かなりの力作ですが、400ページ以上の本で、内容への賛否もある難しい部分もあります。
現代アート初心者なら、とりあえずは1からがおススメです。
書籍よりも、とりあえず、何か早く知りたい時には、1948年創刊の「美術手帳」さんのサイトは、網羅性も高く歴史もあって信頼性も高いので、おススメです。
また、本サイトの各記事にも、参考にさせて頂いた専門的なサイトを外部サイトリンクにてご紹介しています。
なお、岡本太郎の「アートはいやったらしい」という言葉が象徴するように、人によっては、見たくないもの、嫌いなもの、もどんどん見せられますので、そうしたものを見る「覚悟」も必要であることを書き加えておきます。