はじめに
現代アートは、いまかつてない広がりを見せています。絵画や彫刻といった伝統的ジャンルにとどまらず、映像、サウンド、デジタルテクノロジー、さらには社会運動や地域共同体までもが作品の素材となる時代です。坂本龍一が音楽を越えて環境や社会へ発言したように、次世代のアーティストたちもまた、境界を横断し、未来の芸術の形を切り拓いています。
ここでは、日本と海外から30名の注目すべき若手現代アート作家を紹介します。
日本の若手現代アート作家 15名
目[mé](荒神明香ほか)
海そのものが室内に出現したかのような錯視的インスタレーション《Contact》(森美術館「六本木クロッシング2019」)で知覚を根こそぎ揺さぶったコレクティブ。プロジェクト《まさゆめ》(2019–21)では、選ばれた「実在する一人の顔」を巨大バルーンにして東京上空に浮かべ、公共空間と“個人の顔”の関係を問い直した。現実世界の信頼性を撹乱するスケール設計と、市民を巻き込むプロジェクト運営力が評価の核。
田村友一郎
映像・テキスト・拾得画像を再編集し、史実と虚構のねじれを物語化する作家。近作は美術館名の略称から導かれた新作《ATM》(水戸芸術館、2024)。長年自作の土台だった“文章生成”を、過去テキスト群で学習した生成AIに委ね、展示空間に「自走する語り」を出現させた。アーカイブ再解釈×AIという文脈での先端性がポイント。
evala(江原寛人)
完全暗闇の“音の映画”《Sea, See, She》で観客の脳内に映像を立ち上げるサウンド・インスタレーション。文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞、Prix Ars Electronicaでも評価を受けた。視覚に依存しない“鑑賞の身体”の再設計が独創的で、音響建築のように空間そのものを編集する実践が強み。
村瀬都思
AIやデジタルメディアを駆使し、人間と機械の共生をテーマに作品を制作。デジタル世代を代表するアーティストです。
落合陽一
メディアアーティストであり研究者。光学やデジタル物質を素材に、科学とアートを融合させる活動を続けています。
八木良太
音や科学装置をユーモラスに組み合わせ、知覚の仕組みを揺さぶる実験的作品を展開。
片山真理
自身の身体や義足をモチーフに、写真やパフォーマンスを通じて社会の境界を問い直します。Tateなど海外でも注目度上昇中。
和田永
「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」で家電を楽器化。市民参加型の音楽・アート・社会実験を全国で展開。
宮永愛子
ナフタリンや塩を使った儚い彫刻作品で、時間と記憶のテーマを詩的に表現。
小泉明郎
映像とVRを用いたパフォーマンスで共同体と個人の関係を探る。近作《火を運ぶプロメテウス》は高い評価を受けています。
淺井裕介
土や自然素材を使った大規模ドローイングを展開。地域と共同制作するプロセスも作品の一部。
米田知子
歴史的な痕跡を写真で可視化し、記憶とイメージの関係を深く掘り下げます。
ヤノベケンジ
未来的な彫刻や大型インスタレーションで社会へのメッセージを発信。若手世代への影響力も大。
やんツー
テクノロジーの転用や誤用をテーマに、社会性の強いメディアアートを制作。
田村航平
ARやVRを駆使し、都市と身体の新しい関係を探る新鋭。
海外の若手現代アート作家 15名
アンネ・イムホフ(独)
ヴェネツィア・ビエンナーレ2017で金獅子賞。ガラス床や長時間パフォーマンスを組み合わせ、社会の権力構造を可視化しました。
シモーン・リー(米)
黒人女性の身体をテーマにした陶芸・インスタレーションで2022年ビエンナーレ金獅子賞。共同体の力を造形化しています。
トイン・オジ・オドゥトラ(米)
精緻なドローイングで人種やジェンダーを物語的に描き、MoMAやホイットニー美術館で高く評価されています。
タレク・アトウィ(レバノン)
サウンドと身体表現を組み合わせ、難聴者との協働プロジェクトなど包摂的な活動を展開。
オトボン・ヌカンガ(ナイジェリア)
資源や土地と人間の関係をテーマに、織物やインスタレーションでグローバル社会を批評。
コラクリット・アルナノンドチャイ(タイ)
デニムやラップを素材に、映像・儀式・物語を融合。MoMA PS1などで個展を開催。
アドリアン・ヴィラー・ロハス(アルゼンチン)
巨大彫刻や「未来の遺跡」を提示する作品で国際的に注目。メトロポリタン美術館屋上展示でも話題に。
ヒト・シュタイエル(独)
映像で監視資本主義やメディア環境を批判的に可視化。世界で最も影響力ある現代アーティストの一人。
ダン・ヴォー(ベトナム=デンマーク)
移民やアイデンティティをテーマに、現代史を再解釈するインスタレーションを展開。
徐震(中国)
中国現代アートの旗手。文化的アイコンを引用し、消費社会を批判する作品で知られます。
Hiwa K(イラク)
難民や戦争体験をもとにした映像・インスタレーションで国際的評価。
ジャネル・モネイ(米)
音楽家でありながら、アフロフューチャリズム的な表現をアート文脈に接続し、多分野で高い評価。
Otomo Trecartin(米)※Ryan Trecartinとして知られる
デジタル世代を象徴する映像作家。カオス的なインスタレーションで観客を圧倒。
セシリア・ビクーニャ(チリ)
環境や先住民文化を詩的に表現。2022年ヴェネツィア・ビエンナーレで金獅子賞を受賞。
アンドレア・ブティエロ(米)
フェミニズムや環境問題を題材に、社会運動と接続する作品を発表。
共通する傾向
テクノロジーの積極的導入
AI、VR、AR、サウンド、ロボティクスが次世代作家の必須の表現手段になっています。社会性の強化
環境、人種、ジェンダー、障害、移民など、現代社会の核心を直接的に扱う作品が増えています。参加型/公共性
観客や地域共同体を巻き込み、制作プロセス自体を作品に組み込むアプローチが目立ちます。境界横断性
音楽、舞台芸術、学術研究といった他分野との連携が当たり前になりつつあります。
おわりに
現代アートの「次世代」を担う作家たちは、表現を閉じられた領域に置かず、社会や都市、そして私たちの日常に直接働きかけています。
坂本龍一が音楽を超えて環境や平和を語ったように、彼らの作品もまた未来を形づくる力を持っています。30人の活動は、アートがどこへ向かうのかを示す、最良の指標となるでしょう。