音楽がアートの理由~「イマジン(ジョン&ヨーコ)」

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インストラクションアート~思想と参加のアート

「オノ・ヨーコ」と言えば、ビートルズの時代をともに生きてきたシニア世代ほど、未だに「ビートルズを解散させた悪女」のイメージを引きずっているかもしれませんが、近年では、前衛芸術家として再評価されています。
「前衛アート」と聞くと、よくわからない、訳が分からないアート、みたいに思う人も多いかもですが、彼女のアート活動、そして生き方そのものが「今の時代を先取りしていた」という点で、まさに革命的な前衛芸術家の一人と言えるでしょう。

彼女のインストラクションアートの「代表作」としてはいくつかありますが、今回は、世界でもっとも有名であるにもかかわらず、その作品の中に入れられることが殆どない作品があります。
それが、「イマジン」という曲です。

なぜ、「イマジン」が代表作になっていないかと言えば、この曲は長らく「ジョン・レノン」の曲として発表されてそう認識されてきたからです。
また、もうひとつは、「イマジン」はあくまでも「音楽」として分類されてきたからでしょう。
しかし、現在はジョンレノンの「イマジン」ではなく、「ジョンとヨーコ」の共作として世界的にも認知されていること、また、インストラクションアートの本質を理解すれば、「イマジン」は「ジョン&ヨーコ」の「アートの代表作」としても紹介されるべきものでもあります。

「オノ・ヨーコ:時代を変革したアーティスト=アクティビスト」(nippon.com:記事の著者・楠見清)より冒頭を抜粋

2017年6月、全米音楽出版社協会はジョン・レノンの楽曲「イマジン」の共作者としてオノ・ヨーコの名前を加えると発表した。
ソングライターとして2人の名前が並ぶことがレノン自身の希望でもあったことは、生前のインタビューで明らかにされている。

1971年に発表された「イマジン」は、天国も地獄も、国家も無いと想像しなさいと呼び掛けることで反戦と平和のメッセージを歌う名曲だが、この歌詞がオノ・ヨーコの影響で生まれたものであることは、当時から分かる人には分かるようなさりげない提示があった。
アルバム『イマジン』の裏ジャケットの下部に小さな文字で、「雲が滴り落ちると想像しなさい。あなたの家の庭にそれを受け止める穴を掘りなさい(imagine the clouds dripping, dig a hole in your garden to put them in.)—ヨーコ、1963年」という一文が印刷されている。
これはオノの「インストラクション・アート」(命令形の短い文章による作品)の代表作の一つだ。

なお、この1文のもとになっているのがヨーコの革命的アートの傑作「グレープフルーツ」という本です。

「イマジン」の方はアートというより「音楽」というイメージが強いですが、「想像しなさい」という指示、メッセージを、本にしたか、音楽にしたかの違いだけであって、インストラクションアートの本質から見れば、両方とも同じアート作品、と言えるものでしょう。
今やオリンピックの開会式で定番曲のように採用される「イマジン」ですが、「ジョンレノンの一番有名な曲」という認識以外に、「ジョンとヨーコの平和を訴えるインストラクションアート作品」として認識している人はどれだけいるのでしょうか?

この「インストラクションアート」について下記にまとめておきます。


インストラクションアートとは?

インストラクションアートは、観客や第三者に対して「指示(インストラクション)」を与え、その指示に従って作品が制作・実現される形式のアートです。
芸術家が「完成された作品」を直接提供するのではなく、言葉やテキスト、手順書などを通じて「作り方」や「行動のプロセス」を示すことで成立します。


主な特徴

  1. 指示が作品の核
    • 芸術家は具体的な物体を作る代わりに、行動やプロセスを指示する「説明書」を提示します。
    • 指示に従うことで、観客自身が作品の一部または全体を完成させることができます。
  2. 参加型アート
    • 観客や実行者の行動や解釈によって作品が成立します。
    • 芸術家と観客の関係が従来のアートよりも双方向的になります。
  3. プロセス重視
    • 完成した作品だけでなく、その過程や行動そのものが芸術とみなされます。
    • 「行動すること」「考えること」自体が作品としての意味を持つ場合もあります。

歴史と背景

  • 1960年代:インストラクションアートは、主に**フルクサス(Fluxus)**と呼ばれる芸術運動の中で発展しました。
  • ヨーコ・オノソル・ルウィットなどが代表的な作家です。彼らは、言葉やシンプルな指示を用いて、物理的な作品の枠を超えたアートの在り方を提示しました。
  • 当時の背景には、芸術の概念や物質性を問い直し、アートをより自由で民主的なものにしようとする動きがありました。

代表的なアーティストと作品

  1. ヨーコ・オノ
    • 『グレープフルーツ』(1964):短い詩や指示を書いたテキスト作品。観客が想像や行動を通じてアートに参加します。
    • 例:「空を見てください」「石を磨いてください」。
  2. ソル・ルウィット
    • 「ウォールドローイング」シリーズ:壁に描く幾何学的な図形やパターンの指示を提供。実際の描画は他者が行います。
    • 芸術家の手から離れた場所でアートが成立する点が特徴です。
  3. ジョン・ケージ
    • 音楽分野でも指示による作品を展開。観客や演奏者の解釈や偶然性を重視した実験的なアプローチが特徴です。

現代のインストラクションアート

現代では、インストラクションアートの概念はさらに広がり、パフォーマンスアートやデジタルメディアを通じた作品にも見られます。

  • ソーシャルメディアインタラクティブアートにおいても、観客に指示を与え、参加させる形で作品が完成する例が増えています。
  • また、教育やワークショップなどでも、インストラクションアートの手法が取り入れられ、アートの敷居を下げる役割を果たしています。

まとめ

インストラクションアートは、観客が「受け取る者」から「参加する者」へと変わる革新的なアート形式です。
物理的な作品だけでなく、行動やプロセスそのものを芸術とすることで、芸術の概念を広げ、観る者の想像力や主体性を引き出します。


最後に、オノヨーコにマイナスのイメージをお持ちの方にこそ、是非、読んで欲しい、最近の記事がこちら。
筋金入りのビートルズファンなら、アートへの関心の有無にかかわらず、誰でもご存じのエピソードばかりかとは思いますが。

「オノ・ヨーコ再考──財閥の令嬢はなぜアメリカを目指し、アーティストとなったのか」
(ARTNEWS JAPAN:TEXT BY HOWARD HALLE・翻訳:野澤朋代 2024.8.5)
https://artnewsjapan.com/article/2547

上記記事より、ジョンレノンとの出会いの一節を引用、ご紹介

1966年11月8日、レコーディングセッションを終えたジョン・レノンは、ロンドンのメイフェア地区にあるインディカ・ギャラリーに立ち寄った。ポール・マッカートニーやギャラリーオーナーの1人、ピーター・アッシャーを通じて、ここの顔馴染みになっていたからだ。
ミュージシャンで音楽プロデューサーでもあるアッシャーは、歌手マリアンヌ・フェイスフルの夫、ジョン・ダンバーともう1人の3人でインディカを共同経営していた。

そのときはまだ次の個展の設営中だったが、レノンは展示を見て回り、天井に固定された絵の下にある脚立を登ってチェーンで吊るされた虫眼鏡で作品を覗き込んだ。
この参加型アート作品は、レノンがしたように虫眼鏡で覗き込むと、カンバスに小さく書かれた「YES」という文字が見えるというもの。数年後にレノンは、わざわざ脚立を登ったのだから「NO」と書かれていなくてよかったと冗談めかして語っている。

ギャラリーにいたアーティストをダンバーに紹介されたレノンは、もう1つの作品に目を止めた。それも鑑賞者に参加を促すもので、タイトルは《Painting to Hammer a Nail(釘を打つための絵)》。
レノンは「釘を打ってみてもいいですか」と尋ねたが、翌日のオープニングまでは手をつけないたくないと断られた。しかし、がっかりしている彼を見たアーティストは少し態度を和らげ、5シリング払ってくれればいいと言う。
「じゃあ、想像の5シリングを払って、想像の釘を打ち込むことにします」──それが、ロックンロール史上最も有名な恋の1つの始まりだった。

 

わたしも、長年、ポール・マッカートニーのファンで、「アート」という世界に深く関心を持たず、専ら音楽好きという立場でジョンレノンの妻、ヨーコ、という認識しかりありませんでした。
そういうシニア世代の方で、未だに「ヨーコ=レノンの妻、ビートルズ解散の元凶」みたいなイメージをお持ちなら、人生の終盤において、是非、「前衛芸術家オノヨーコ」の実像に触れてみて下さい。

私自身もそうでしたが、ヨーコに対するマイナスイメージのある人ほど、そのイメージ転換の振れ幅が大きく心に響きます。
昔からご存じの方からすれば「何を今さら」という感じかもですが、こういう時代の今だからこそ、改めてオノヨーコ関連の記事が増えてきているのだと思います。
SNSやAIの時代になり、ますます「アート」の定義や境界があいまいに拡大する中で、いかに時代を先取りした思想と行動をとってきたか、「アートや人生の本質」を先取りしたセンスと、その「一貫した生き方」にはリスペクトを感じます。

前衛芸術家としてのヨーコの実像と、なぜジョンがそこまで影響を受けたのか、ということを先入観なく読んでみると、彼女のこうした「生き方」にある種の感動を覚え、また、現代アートへの理解も少しですが深まりました。

ジョンとヨーコの思想を知ったうえで、もう一度、「イマジン」を聴き、想像し、歌い、平和を願い「何かを行動に移せば(この記事を書くような「行為」もまたそうであるはずです)」、今日から私もあなたも「イマジン」の共同参加アーティストの一人なのです。