現代アートの表現手法を多様化した立体ポップアート
3Dポップアートは、立体的なアート作品はおちろん、平面のアート額等にも立体的な要素を加えることで、視覚的な効果を一層強調した表現方法です。
ポップアートが消費文化や日常的なアイコンをアートに取り入れる運動として1960年代に誕生したのに対し、3Dポップアートは、そのスタイルに立体感や奥行きを加えることで、さらに新しい視覚的体験を提供します。
以下では、3Dポップアートの歴史、技法、代表的なアーティスト、アート額における立体化などの概略をまとめてみました。
1. ポップアート運動の起源と発展
ポップアートは、1950年代末から1960年代にかけてアメリカとイギリスで誕生しました。
アンディ・ウォーホルやロイ・リキテンスタイン、クレス・オルデンバーグなどのアーティストたちが、広告、漫画、消費文化といった日常的なイメージをアートに取り入れました。
彼らは、アートと商業、メディアとの境界を曖昧にすることで、アートの新しい可能性を広げました。
その後、1970年代から1980年代にかけて、ポップアートは平面アートにとどまらず、立体的なアプローチを取るアーティストたちによって進化します。
これがいわゆる3Dポップアートの誕生です。
2. 3Dポップアートの技法と表現
3Dポップアートでは、平面アートに立体的な要素を加えることで、作品に視覚的な深みや動きを持たせます。
具体的には、立体化されたオブジェクトやアート額のデザインが重要な要素となります。
以下に代表的な技法を紹介します。
2.1 立体オブジェ
旧来の彫刻という手法はもちろん、ポップアートを様々な素材や手法で立体的なオブジェとして創作するものです。
ポップアートだけでなく、現代アート全般で立体的なアート作品はとてもポピュラーな手法です。
そもそも、現代アートの始まりと言われている、マルセルデュシャンの「泉」は男性の小便器でした。
一方、2次元の絵画、グラフィック作品を立体的に表現するという手法には以下のように、様々な技法があります。
2.2 デコパージュ風技法
デコパージュは、紙や布を切り抜いて、接着剤で貼りつける技法です。
この手法を使うことで、平面のアートに層を重ね、立体感を持たせることができます。
特にジェームズ・リジィは、デコパージュ風の技法を多用し、立体的なキャラクターや都市風景を作り出しました。
彼の作品は視覚的に非常に鮮やかで、切り抜きや重ね合わせが特徴です。
2.3 レイヤー技法
複数の層を重ねることで、アートに奥行きと立体感を加える方法です。
この技法は、リジィのようなアーティストだけでなく、ジェフ・クーンズやロイ・リキテンスタインの作品にも見られます。
重ねられたレイヤーは、観客に対して新たな視覚的体験を提供し、平面アートに立体感を持たせます。
2.4 アート額の立体化
アート額そのものを立体的に作り上げる技法も、3Dポップアートの特徴です。
アート額がただの枠としてではなく、作品の一部として機能することで、アートの表現が一層豊かになります。
リジィはその代表的な例で、彼の作品では額縁が立体的に加工され、アートの世界に一体感を持たせました。
3. 代表的なアーティストと作品
3.1 ジェームズ・リジィ (James Rizzi)
ジェームズ・リジィは、3Dポップアートの先駆者の一人として知られています。
彼の作品は、鮮やかな色使いと立体的なキャラクターや都市風景が特徴です。
リジィは、ポスターや絵画にデコパージュ風の手法を使い、平面に立体的な層を加えることで、視覚的に魅力的な作品を生み出しました。
特に、彼の作品の額縁にも立体感が加えられ、作品全体が一つのアートとして調和しています。
リジィはポップアートの中でも比較的手の届きやすい作品が多く、そのためコレクターやアート愛好者にとっては比較的購入しやすい存在となっています。
リジィの作品は複製やエディション作品が多いため、一般的なアート愛好者にも手が届きやすく、その結果、比較的低価格で市場に流通しています。
これは、リジィが、ポップアートとして、作品が多くの人々に手に取られることを目的としていたためと考えられます。
ただし、オリジナル作品や大型の立体作品については依然として高価なものもあります。
3.2 ジェフ・クーンズ (Jeff Koons)
ジェフ・クーンズは、日常的なオブジェクトやポップカルチャーのアイコンを立体作品として表現したことで有名です。
彼の代表作である「バルーン・ドッグ」や「ピンク・バニー」などの巨大な彫刻は、3Dポップアートの象徴的な作品として挙げられます。
クーンズのアートは、商業性とアートを融合させた新しい形態のアートとして評価されています。
彼の作品には、ポップアート的な要素が強く、アート額や立体作品においてもその影響が見られます。
3.3 ロイ・リキテンスタイン (Roy Lichtenstein)
リキテンスタインは、コミックスタイルのアートを取り入れたことで有名ですが、後期の作品では、立体的な表現を試みることもありました。
彼は、平面アートに立体的なキャラクターや奥行きを加えることで、ポップアートを新しい次元へと進化させました。
3.4 アンディ・ウォーホル (Andy Warhol)
ウォーホルは、ポップアートの巨星であり、商業的な美学をアートに取り入れたことで有名ですが、彼もまた一部の作品で立体的な要素を取り入れました。
特に「キャンベルスープ」のシリーズなどは、平面に見える一方で、視覚的に立体的な深みを感じさせる要素があります。
また、ブリロ・ボックスというアメリカの食器洗いパッド「ブリロ」の包装箱を模した立体作品もあります。
数年前に、鳥取県立美術館がブリロ・ボックスを3億円で買ったことが無駄遣い的な物議をかもしたことが記憶に新しいですね。
3.4 クレス・オルデンバーグ (Claes Oldenburg)
日常のありふれた物を超巨大に複製したパブリックアート・インスタレーション等で有名な作家です。
日本にも彼の立体オブジェがあります。東京ビッグサイトに行ったことがある方なら、おそらくこの、巨大な赤いオブジェ(「Saw, Sawing(切っている鋸)」)が記憶にあるはずです。
ポップアート創始の重要アーティストの一人であり、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)世代の中ではつい最近の2022年まで生きて、93歳で亡くなりました。
3.5 草間 彌生 (Yayoi Kusama)
草間彌生は、いまでは「前衛の女王」とか「ポップアートの女王」とまで呼ばれている世界的な作家の一人ですが、ポップアートの先駆者たちに対しては、いろいろと複雑な思いを持っているようです。
その草間彌生の立体ポップアート、という作品としては、直島にあるような「カボチャ」のオブジェが有名ですが、カボチャだけでなく、様々な立体オブジェを創作しています。
4. アート額における立体化
アート額に立体的な要素を加える技法は、3Dポップアートの一部として非常に重要です。
リジィやクーンズは、アート額を作品の一部として利用し、額縁が単なる枠を超えてアートの表現の一部となるようにしています。
アート額を立体的に加工することで、観客は額縁と作品を一体的に感じ、視覚的な奥行きや動きを体験することができます。
特にリジィの作品では、アート額そのものが立体的に作られており、これが彼の作品の特徴的な魅力を引き立てています。
額縁が作品の一部として機能することで、平面のアートに新たな命が吹き込まれ、より深い印象を与えます。
5. 市場における3Dポップアート
ジェームズ・リジィやジェフ・クーンズといったアーティストの作品は、アート市場で高い評価を受けていますが、前述のように、リジィの作品は比較的手頃な価格で販売されることが多いです。
リジィは商業的なアートを得意とし、彼の作品はポスターやリミテッドエディションなど、比較的購入しやすい価格帯で販売されているため、広範なコレクター層に人気があります。
一方で、ジェフ・クーンズのようなアーティストの作品は、オークションでは数百万ドルに達することもあり、非常に高額で取引されることが多いです。
市場における需要と供給、アーティストの知名度によって、価格帯は大きく異なります。
購入しやすい価格帯でインテリアにも馴染みやすい、親しみやすいテーマやビジュアルのポップアート作品があることは、現代アートの大衆への開放という観点からも意義があることだと思います。
6.まとめ
3Dポップアートは、ポップアートの基礎を受け継ぎながら、立体的な表現を加えることで新しい視覚的体験を提供するアート形式です。
ジェームズ・リジィやジェフ・クーンズ、ロイ・リキテンスタインなどのアーティストたちは、アート額を立体的に加工することで、平面アートの枠を超えた新しい可能性を開きました。
そもそも、立体的表現が当たり前だったポップアートは、アート額のような2次元のアートにも多様な表現手法を使った多様な作品が生まれる道を開きました。
ポップアートは、従来の表現手法だけにこだわらない現代アートの潮流の中で、立体作品だけでなく、平面的なアート額の表現方法にも大きな影響を残したと言えるでしょう。
欧米のラベルをモチーフにして、欧州のデコパージュと日本の型染の切り抜き、さらに蒔絵の光沢という独自の技法で立体的なアート額にした作品が「Pop Art Deco」シリーズです。
ポップアートでありながら、伝統工芸の手法で丁寧に作られた作品は、ジェームズ・リジィの3Dアート額とは異なる面白さがあります。
複製が困難な技法で作られていますが、価格は数万円台という、アート額が初めての方にも手ごろな価格で販売中です。
一品物のアート額を初めて購入する方はこちらもご参考にどうぞ。
「初めてのアート購入のために必要な知識」
お知らせ
PopArtDecoシリーズのアーティスト「Kazue Masaki」様が初のエッセイ集として「子ども心はバイオリンを奏でるように」を出版されました。
日本とアメリカで子育てを経験された二児の母として、子育ての喜び、日米の育児の違い、少子化や引きこもりへの考え、
そして電話相談ボランティアやアート作品制作の経験から思いを綴るエッセイ集です。