アートギャラリーは、美術館とは異なる不思議な空間です。
美術館のように行列ができるわけでもなく、ほとんどが無料で入れるにもかかわらず、訪れる人は少ないのも普通です。
そのため、アートに詳しくない人にとっては「なぜ?」と思う存在かもしれません。
しかし、ギャラリーは単なる展示の場ではなく、アート市場やアーティストの活動を支える重要な役割を果たしています。
この静かな場所がどのように機能し、なぜその姿勢を保っているのか?
今回は、そんなアートギャラリーの世界を深掘りしてみました。
1. アートギャラリーの分類
アートギャラリーは、その運営形態や目的に応じてさまざまな分類が存在します。
以下に主要な分類とその特徴をまとめました。
1.1 コマーシャル・ギャラリー(企画画廊)
コマーシャル・ギャラリーは、主にアーティストと契約を結び、作品の展示・販売を行うギャラリーです。
これらのギャラリーは、作品の販売収益を主な収入源としており、以下の2種類に分類されます。
- プライマリー・ギャラリー: アーティストの新作を直接取り扱い、初めて市場に出す役割を担います。
ここで取り扱われることで、アーティストはプロとして認知され、制作活動に専念できる環境が整います。 - セカンダリー・ギャラリー: 既に市場に出た作品を再度取り扱うギャラリーで、オークションなどで作品を調達し、顧客の需要に応じて販売します。
1.2 レンタル・ギャラリー(貸画廊)
レンタル・ギャラリーは、スペースをアーティストや団体に貸し出す形式のギャラリーです。
利用者はレンタル料を支払い、一定期間自由に展示を行うことができます。作品が売れた場合、販売手数料がかかることもあります。
誰でも利用可能で、セルフプロデュースを希望するアーティストに適しています。
1.3 その他のギャラリー形態
近年、不況や美術の多様化により、以下のような従来の分類に収まらないギャラリーも増えています。
- 半企画画廊: レンタルとコマーシャルの両方の機能を持ち、ギャラリーとアーティストが共同で企画を提案する形式。
- 入場料徴収型ギャラリー: 展示の質や内容に応じて入場料を設定し、収益を得るギャラリー。
- その他、レストランなどが併設しているレンタルギャラリー等もあります。
2. アートコレクター向けの現実
多くの著名なギャラリーでは、実際のところ、アートコレクターや業界関係者を主なターゲットとして運営されています。
これにはいくつかの理由があります。
- 販売目的:
ギャラリーにとって、作品を購入してくれるアートコレクターは最も重要な顧客層であり、展示会もそのターゲットに合わせた内容やプロモーションが行われることが多いです。 - アクセスの難しさ:
著名なギャラリーの多くは、普通の人にとってアクセスしにくい場所に位置しています。
例えば、隠れ家的なエリアやビルの一室にある場合も多く、入場にはアポイントメントが必要な場合もあります。 - 観客の少なさ:
無料で開放されていても、多くのギャラリーでは観客がほとんどいません。
特に、一等地に位置する高額な家賃を支払うギャラリーでも、来場者数は非常に少ない場合が多いです。 - 世界的な構造:
世界の現代アート市場を牛耳るアート関連ビジネスの組織等は、アートのコモディティ化(大衆化)を敢えて避ける傾向があります。
そのため、「アートをすべての人に開放する」という表向きの姿勢を取りつつも、実際には購入可能な富裕層、コレクター層をターゲットにした独占的な構造を構築していると考えられます。
3. 東京の主要なアートギャラリー
東京には、ユニークで魅力的なギャラリーが多く存在し、その多くが無料で入場可能です。
しかし、一般の来訪者にとって敷居が高いと感じられる場合もあります。以下に注目すべきギャラリーを網羅します。
- ペロタン東京 (Perrotin Tokyo) (六本木): フランス発のギャラリーで、現代アートのトップアーティストを紹介しています。
- タカイシイギャラリー (清澄白河): 国内外のアーティストを幅広く扱い、清澄白河エリアのアートシーンの中心的存在です。
- スカイザバスハウス (谷中): 元銭湯を改装して作られたギャラリーで、地域密着型のアートスペースです。
- 小山登美夫ギャラリー (六本木): 現代アートに特化し、国内外の新進気鋭のアーティストを積極的に紹介しています。
- ナディッフギャラリー (代官山): 現代アートと書籍の融合が特徴。
- ヒロミヨシイギャラリー (六本木): 国内外のトップアーティストの作品を扱うギャラリー。
- アートフロントギャラリー (代官山): 建築やインスタレーション作品など幅広いアートを展示。
- OTA FINE ARTS (天王洲アイル): 草間彌生をはじめとする国内外の著名アーティストを扱っています。
4. 著名ギャラリー運営者のプロフィール事例
アートに詳しくない人から見ると、いったいどういう人たちが運営してるんだろうと不思議に思うのが個人名とかが付いたアートギャラリーです。
プロフィールが公表されているような著名なギャラリーの運営者の事例でみてみましょう。
4.1 小山登美夫ギャラリー(Tomio Koyama Gallery)
運営者: 小山登美夫氏
小山登美夫氏は、1963年東京生まれ。1987年に東京芸術大学芸術学科を卒業後、西村画廊や白石コンテンポラリーアートでの勤務を経て、1996年に江東区佐賀町に小山登美夫ギャラリーを開廊しました。
奈良美智や村上隆などの展覧会を多数開催し、さらにリチャード・タトルやライアン・マッギンレーなどの海外アーティストを日本に紹介しています。
2016年10月に六本木に移転。著書には『現代アートビジネス』や『“お金”から見る現代アート』などがあります。
4.2 タカイシイギャラリー(Taka Ishii Gallery)
運営者: 石井孝之氏
石井孝之氏は、1994年にタカ・イシイギャラリーを設立し、写真や現代美術を中心に国内外のアーティストを紹介しています。
東京都内に複数のスペースを持ち、質の高い展覧会を開催しています。
4.3 MISAKO & ROSEN
運営者: ローゼン美沙子氏とジェフリー・ローゼン氏
2006年に設立。国内外の新進気鋭のアーティストを紹介し、独自の視点で展覧会を企画しています。
上記の他にも、アートギャラリー関連サイトをネット検索すれば、おおよそのイメージがつかめると思いますが、それでも、いろんな疑問が浮かんでくるのがアートギャラリーです。
アート好きで、ビルを所有するビルオーナー等が、賃貸ビルの1室を自分の趣味も兼ねてギャラリーにして貸し出しているといった事例も少なくありません。
また、アート業界で著名なキュレーターが、自らの名前を冠してギャラリーを運営しているケースもあります。
いずれにしても、都内にあるような安くはないであろうギャラリーの家賃、運営費を誰がどのように負担しているのか、果たして儲かっているのか?といったことは第三者にはうかがい知れません。
儲けは度外視してやっている人もいるでしょうし、様々な人たちがいると思われますが、いずれにしても儲かるかどうは別にして、「アート」に全く興味がないような人は殆どいないと思われます。
5. ギャラリー運営の課題
アートギャラリーは多くの魅力がある一方で、以下のような課題に直面しています。
- 経済的プレッシャー: 資金の大部分が作品販売に依存しているため、売上が不安定な場合、運営が困難になることがあります。
- 知名度の向上: 宣伝力が弱く、広く認知されるのに時間がかかることが多い。
- 競争の激化: 東京のような都市部では、多くのギャラリーが存在するため、独自性を持つことが重要です。
- アーティストとの関係: 利益配分や契約条件の交渉が難しい場合もあります。
6. まとめ
アートギャラリーは、芸術文化を支える重要な役割を担っています。
それぞれが異なる目的や運営方針を持ちながら、アーティストや地域社会との結びつきを深めています。
これらのギャラリーが、より多くの人々にアートの魅力を伝える場として成長していくことが期待されます。