『ブレードランナー』の評価にみる価値観の分断と接合へのヒント

“理解できないもの”を排除し始めた時代に、この映画が残したもの

『ブレードランナー』についての不思議さと面白さは下記にあります。

  • なぜこの映画が賛否を生み続けるのか
  • なぜ万人向けではないのか
  • なぜコアなファンは“混沌”に惹かれるのか

この映画の本質は、単なるSF映画ではありません。
むしろ今の時代だからこその、人間社会の永遠の課題へのリアリティを持ち始めています。

それは、

「理解しあえない人、社会はどう対処すべきか」

という問題です。

『ブレードランナー』は、最初から“わかりにくい”

そもそも、『ブレードランナー』は極めて不親切な映画です。

  • 展開は遅い
  • 説明は少ない
  • 爽快感も弱い
  • 感情移入も簡単ではない
  • 何が正義かも曖昧

普通の娯楽映画として見ると、かなり厳しい。

だから公開当時、多くの人が、

「なんだこれ」
「退屈」
「意味不明」

となり、打ち切りの憂き目にあいました。

しかし一方で、一部の人は異常にハマった。
そしてレンタルビデオの隆盛とともに、一部の人から高い評価を受けて、
今や「SF映画の金字塔」という評価を得てしまいました。

しかも面白いのは、「つまらない、面白さが不明、なぜ名画なのか」という多くの批判を浴びている一方で、
コアなファンたちが、作品の“不完全さ”や“混沌”そのものを愛していることです。

  • 複数バージョン
  • 原作との違い
  • 現場のカオス
  • 説明不足
  • 意味不明な日本語
  • 強力わかもと
  • 東洋風なのに間違っている未来都市
  • デッカードの部屋
  • エニス邸
  • CG以前の特撮の質感

普通なら欠点になりそうなものまで、魅力として取り込んでしまっている。

つまり『ブレードランナー』は、
「完成された万人向けに面白い作品」
ではなく、

「混沌ごと愛されている作品」なのです。

これは現代アートともかなり似ている

現代アートも同じです。
多くの人は、

「意味がわからない」
「なぜ評価されているのかわからない」
と言います。

しかし一部の人は、その“不安定さ”や“解釈不能性”に強く惹かれる。

つまり、「理解できない=価値がない」
ではなく、「理解できないからこそ惹かれる」

という感覚が存在する。

しかし今の社会は、この“理解できないものを残しておく余裕”が急速に失われ始めています。

政治的分断の時代

今のSNS空間では、
「わかりやすい正義」が極端に強く求められます。

  • 正しい側
  • 間違った側
  • 味方
  • 排除すべき存在

こうしたラベル分けが加速している。

そして、その構造は政治だけではありません。

映画。
アート。
大学。
美術館。
ゲーム。
小説。

あらゆる文化領域で起きています。

特に近年のアメリカでは、

  • 大学への政治圧力
  • 美術館への批判
  • “リベラル的価値観”への反発
  • ナショナリズムの強化

などが激しくなっています。

つまり社会全体が、

「理解しにくいもの」
「曖昧なもの」
「一つの正義で説明できないもの」

に耐えられなくなり始めている。

『ブレードランナー』は曖昧でスッキリしない

『ブレードランナー』が今も特殊なのは、最後まで、

  • 人間
  • 非人間
  • 正義
  • 偽物
  • 本物

を語りきらなかったことです。
むしろ境界を揺らし、観客に、
「何が言いたいのか?」という疑問を抱かせます。
そして、それを

雨。
沈黙。
都市。
光。
疲労感。
孤独。

そして「人間という存在への疑問」という
曖昧でスッキリしない体験をさせた。

それは、製作側が完全に意図してコントロールしたとは限らない、
偶然によって生まれているのです。

ここが、この映画の核心です。

混沌からしか生まれないものがある

さらに重要なのは、この映画そのものもまた、混沌から生まれていることです。

  • リドリー・スコットの暴走
  • 現場の摩擦
  • スタジオ介入
  • 結末変更
  • 原作との違い
  • 俳優との衝突
  • 複数バージョン

つまり『ブレードランナー』は、
原作者や監督や脚本家の「統一された思想」
から生まれた映画ではありません。

多くの人間の衝突と化学反応が、偶然、奇跡的に結晶化してしまった作品です。

だから不安定。
だから賛否が割れる。
だから一部の人に深く刺さる。

今の時代は、“わかりやすい作品”を求めすぎている

AI時代に入って、さらにその傾向は強くなっています。

AIは、

  • 整理されたもの
  • わかりやすいもの
  • 最適化されたもの
  • ノイズの少ないもの

を作るのが得意です。

しかし『ブレードランナー』は逆でした。

ノイズだらけ。
矛盾だらけ。
不安定。
説明不足。
偶然の産物。

だからこそ、人間的だった。
つまりこの映画は、
「人間の創造とは何か」まで逆に問い返してきます。

そして最後に

ここまで読んでも、おそらく多くの人には、
「だから何が面白いのかわからない」
と思われるでしょう。

しかし、「面白くないから見るべきではない」とすべての人に浸透させてしまうと、新たに“ハマる人”が見る機会を失ってしまいます。
一方で、あまりに「名作」だと言いすぎると、本来は観なくてもよかった人まで観てしまう。

ここが、『ブレードランナー』という映画の厄介なところです。

そこで、観てしまって共感できなかった人たちには、仕方ないので、こうお伝えしたいと思います。
『ブレードランナー』は、「理解できないものと、人はどう共存するのか」という、人類がずっと失敗し続けてきた哲学的問題を考えさせる映画です。
だから、普通に面白いはずがないのです。

そして、私の記事をお読みいただいて、
「ああ、そういうことか。自分にはつまらない映画ではあるが、好きな人がいる理由は少しだけわかった」
というお気持ちになっていただけたら幸いです。
もちろん、その人たちの気持ちには、とても共感できないけれど……でかまいません。

間違って観てしまって疑問や批判を書く人たちに「それ、違いますよ」というよりも、
逆に、コアなファンの方にこそ、あまりいろんな人に「名作だ」「面白い」と言い過ぎない方がいいですよ、
と言いたいのです。

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